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俺の存在を切り離すような冷たい瞳。
俺を支え、この世に引き留めようとした温かい手。
どちらも能力を持つ人物だった。
能力を持ち合わせているが故に俺の存在を恐れた母。
能力を持ち合わせているからこそ俺を理解し受け入れてくれた祖母。
決して俺の手を握らない母と手を握ってくれた祖母。両者の違いは何だったのだろうか。
そして、俺の能力をコントロールする為の実験台になってくれた祖母はもうこの世にはいない。心の中を全て読まれると判っていながら、手を握ってくれた優しい人はもう俺の傍にはいなかった。
『大丈夫よ、蒼《そう》。あなたが私の手を握っても、あなたは私の心を読めないから』
一族の中には色んな形の能力者がいて、由乃《よしの》は人の心は読めなかったが、読ませないという能力を持っている人物だった。事実、俺が彼女の手を握っても何を考えているのか全く判らなかった。
左手で他人の左手を握ると無尽蔵にその人の感情や記憶が流れてきて、それをコントロールすることが出来なかった当時の俺には由乃の存在は祖母と同じぐらい貴重な存在だった。
静かな田舎の村。
母のように人の心を読むことで成り上がろうとする野心を持った人物は皆、都会に出てしまっていたから、村に残っている能力を持つ人間は、他人と同じでありたいと願う心の持ち主ばかりだった。
もっとも、相手の考えをそのまま読めるのは一族の中でも直系だけで、それ以外の能力者たちは他人の手を握っても、感情を色で見ることぐらいしか出来ないのだと祖母が話していた。
だから、同じ能力者といえども直系の人間は能力者たちからも畏怖の念を抱かれていて、祖母の家にやってくるのは、他人に心を読ませない能力を持っている由乃の家族ぐらいだった。
『蒼の傍に、ずっといてあげるね』
由乃のことは嫌いではなかった。
――――ただ……。
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「ん……ん?」
頭を撫でられる感触で桃花は目を覚ました。ぼんやりとした視界の中で人の形が浮かび上がりそれが知っている人物だと気が付くまでに彼女は少しの時間を要した。
「……宮間、さん?」
「おはよう桃花。ごめん、起こしてしまったね」
「え、あ……」
はっきりとしない頭で状況を理解しようとする彼女を、宮間は笑った。
「まだ、寝てていいよ。起きるには早い時間だから」
宮間の家に泊まりに来ていたということを桃花はようやく思い出す。
「……あれ、すみません。私、いつの間にか寝てしまったんですね」
買い物を済ませたあと彼の家に来て、カフェオレを飲んだところまでは覚えていた。
「疲れているんだよ。もう少し、寝なさい」
寝心地の良い広々としたベッドの上に寝かされていると、宮間にそう言われなくても睡魔が襲ってくる。
「……宮間さん、隣にいて下さいね」
「ああ」
寝転んでいる宮間に桃花が身体を寄り添わせると、彼は再び彼女の頭を撫で、それから頬を撫でた。
自分にぴったりと身を寄せてくる桃花を見て、寝ぼけているんだろうと彼は考え小さく笑う。
母のように成り上がりたいという野心はない。
願うことは、静かで穏やかな時間を過ごしたいだけだった。
自分の何もかもを許し、愛してくれる人が欲しいだけ。
だけど野心がないと言いながらも、それこそが分不相応な望みなのかもしれないと、自分の身体の傍で小さな寝息を立てている桃花を見つめ、宮間は深い溜息をついた。
君は、いつまで傍にいてくれる?
ごまかし、騙し続けても、真実がある以上いつかは露呈する。
ずっと傍にいられないのなら、今までそうしてきたように手放すしかないのだろうかと考えながらも桃花の身体を抱き締めた。
――――手放すことなど出来ない。
諦めることが出来るのなら、初めから手を出したりはしなかった。
「……ごめんね、桃花」
ぽつりと呟き、彼女を抱き締めたまま宮間も眠りについた。
執着の二文字を心の中で揺らしながら……。
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